短期留学 – K.Aさん

K.Aさん 東京都出身 大学教員

 

青島日美での短期留学体験記

 

 

1.序
2017年2月、青島日美外語専修学校で約2週間、短期留学生としてお世話になった。
私は普段、大学で教鞭をとっている。中国の専門家というわけではない。それでもここ数年、中国に出張する機会、そして中国人の研究者と接する機会が増えていた。
思い切って中国語を勉強しよう。中国語を勉強して、人脈や研究の幅を広げよう。 そう思ったのが約二年半前。それから、ほぼ毎日、通勤時にオーディオ教材を聴き、寝る前には文法の本を少しずつ読みすすめた。
会話力の向上を目指し、週に2〜3回、(日美ではない、別の学校の)オンライン・マンツーマン・レッスンも受講した。職場の大学では、恥を忍んで中国人留学生にも中国語で話しかけてみた。東京の中華料理屋でも、チャンスがあれば中国人の店員に中国語で注文してみた。
外国語というのは、使えば使うほど学習意欲が湧いてくるものだ。たどたどしくても、自分の言葉が相手に通じて、嬉しい。言いたいことが結局言えず、悔しい。経験上、この嬉しさと悔しさこそ、語学学習を継続させる糧となる。だから私はひたすら中国語を使ってみた。遠慮は禁物。図々しいぐらいの方が語学は上達すると思う。
二年が経過した。
日常会話や雑談であれば、中国人と楽しく会話できるくらいのレベルには到達していた。
もっと中国語を話せるようになりたい。数週間で良いので、現地に腰を据え、生活に根づいた言葉に囲まれながら中国語を学びたい。そんな欲求が次第に自分の中で膨らんでいた。 オンライン・レッスンを経験し、マンツーマンで学ぶことのメリットは痛感していたので、どうせなら留学先でも個人レッスンを受けよう、そう思った。
2016年の秋のことである。

 

2.青島日美との遭遇
「中国 短期留学 マンツーマン」と、ネットで検索をしてみる。ヒット件数30万件以上。呆然。
しかし留学は安い買い物ではない。学校は慎重に選びたい。
教え方が下手な先生。情熱に欠けた先生。そういう先生と何日も向き合って過ごすなんて、考えただけでゾッとする。
検索結果の上位に表示されるからといって、その学校が良い学校とは限らない。このご時世、カネさえ積めば、検索結果などいくらでも操作できることは大学生でも知っていることだ。
気を取り直し、ひとつひとつ検索結果のリンクをクリックしていく。
これだけ情報が氾濫しているというのに、どんな先生達が、どんな感じで中国語を教えてくれるのか、今ひとつわからない学校ばかりだ。
見覚えのある、中国の有名大学付属の語学学校の名前もたくさん並んでいる。 しかし「大学の知名度」も、「先生の教え方のうまさ」を完全に保証するものではない。大学に勤務する人間として、この事も自信をもって言える。 検索を続けた。
経営者が良き教育のために情熱を注ぎ、クオリティの高い先生を数多く抱えた学校を求めて。
二ヶ月が経過した。
偶然、某有名動画サイト上で、「青島日美外語専修学校」という名前の学校が配信する中国語講座の動画チャンネルに巡り合った。
講座は初級、中級、そして上級編に分かれ、それぞれ100本以上のレッスン動画が投稿されていた。合計300本以上という動画の数は、他の中国語講座チャンネルで配信されている動画の数を圧倒的に凌駕していた。
動画を観てすぐに気付いたこと。
それは動画に登場する先生たちのクオリティが総じて高い、ということだ。
動画は1レッスン5分間と短い。しかし、講義の内容には「無駄」も「漏れ」もなく、まるで30分間の講義を受講した後のような、そんな充実感を味わうことができる動画だった。 いくら5分間とはいえ、これだけ密度が濃く、しかも内容が整理された講義をノーカットで話し続けることは容易ではない。
となると、撮影の準備のために要した時間は1レッスンあたり2-30分では済まないはずだ。少なくとも、1レッスンあたり数時間は準備に時間を費やしているだろう。 動画の数が300本ということは、トータルの準備時間は計り知れない長さ、ということになる。
次に気付いたこと。
それは、いくつかのレッスンについて、「動画の修正版」がアップされていたこと。 よくよく調べてみると、当初の動画のコメント欄に、「XXの文法に関する解説がわかりにくい」という、プチ・クレームが書かれていた。なんとこの学校は、クレームが書かれた部分の解説方法を改善したうえで、わざわざ動画をもう一度撮り直し、修正版をアップしていたのだ(たとえば初級第67課参照)。
そもそも、300本の動画は無料で配信されているわけだから、一視聴者のクレームを受け、その都度動画を修正する義務などは負っていないはずのに。。 妙にプロ意識の高いサイト運営者だな。私は、そう思った。
気になってWEBサイトを調べてみると、この「青島日美」なる学校は、青島ビールで有名な中国山東省のチンタオにて、短期留学のコースも開講しているらしい。しかも、私が希望していたマンツーマン・レッスンも提供していることが判明した。
「短期留学のレッスンでも、動画のように無駄と漏れのない授業を提供してくれるのだろうか。」 「もしそうならば、ここに留学しても良いかな。」 そんな期待が私の中で次第に膨らんでいった。

 

3.決断
しかし私は用心深い人間である。
動画配信チャンネルでは「親身になって教育します」という奉仕の精神を装いつつ、実際の留学ビジネスでは拝金主義的な経営をしている可能性も否定できない。
ただ、「動画に登場する講師陣のクオリティが一貫して高い」ことは紛れもない事実であった。実力もないのに、宣伝目的のためだけに講義の上手さを「偽装する」なんてことは普通はできないはずだ。
また、仮に経営者が金の亡者であるならば、300本もの動画を制作して無料で配信したり、一視聴者が書いたプチ・クレームのために、一度投稿した動画をわざわざ修正して再投稿した、という事実に関する説明がつかない。
さらに青島日美の動画を手当たり次第に観ていくと、森校長という、髭の生えた日本人のおじさんが登場し、中国人の講師の先生たちと仲良さそうに飲み会の場で歓談しているシーンが収録された動画が見つかった。この動画を撮影、投稿した意図は全くをもって不明であるが、経営者と先生達との間に固い信頼関係が結ばれていることがうかがえる、そんなアットホームな雰囲気の動画であった。
従業員を大切にし、職場の満足度を高める。これは企業が消費者に質の高いサービスを継続的に提供するうえでの大前提である。彼らの笑顔自体が偽装である可能性もゼロではない。しかし私が見る限り、登場人物の誰ひとりとして、演技をしている様子はうかがえなかった。
状況証拠はそろった。
あら捜しを止め、意を決して青島日美に短期留学に関する問い合わせメールを送った。
2016年12月の最終週のことである。
動画に登場した森校長という人物から、その日のうちに丁寧な返事が返ってきた。
レッスンの中身について、レッスンを担当する先生について、そして宿泊先について、私はさまざまな要望を伝えた。森校長は、すべての要望に対して柔軟に、真摯に、そして迅速に回答してくださった。無理なものは無理、とも言われた。そんな対応からも、森校長の誠実さを感じた。
翌日、私は日美での短期留学を決意し、「よろしくお願いします」と森校長に連絡をいれた。

 

4.授業開始
2月某日、私は青島流亭国際空港に降り立った。初めての青島。寒い。
滞在中、なるべく多くのことを経験したかったので、学校の送迎サービスは使わず、空港からホテルまでは自分でタクシーを利用した。ホテルまでの料金の相場は予め森校長に確認してあったが、運転手にも大凡の相場を確認したうえで、タクシーに乗車、メーターを回してもらった。
無事にホテルに到着。チェックインをすませ、部屋に荷物をおいた後、スマホの地図アプリを頼りに「中環国際広場」なる場所にある学校のビルまで徒歩で何とか移動。そこがなぜ「国際広場」と呼ばれているのか、どこが国際的なのか、結局最後までわからなかった。
エレベーターに乗る。内部はやや暗く、ドアもガタついていたが、たぶん安全性に問題はないだろう。
12Fに上がる。廊下を歩いていく。やがて「青島日美外語専修学校」と書かれた部屋が見えてきた。
中に入る。受付には感じの良い日本人の若い男性が座っていた。名を告げると、若者は「お待ちしておりました!」と爽やかに言い、奥の教員室のような部屋の、さらにその奥の控室のような小部屋に通された。
しばらく待っていると、教科書を10冊ぐらい両脇に抱えて若者が再登場し、私のレベルと今回の留学目的に合致した教科書を一緒に選定してくれた。
教科書の選定をあなどってはいけない。
学習目的にもよるが、各ユニットの会話文のトピックが退屈な教科書、会話のシチュエーションが非現実的で不自然な教科書、時代設定が古すぎる教科書、あるいは今後の人生で自分が使う可能性がほとんどない単語がやたらと登場する教科書などは避けたい。こういう教科書を選んでしまうと、それだけで学習意欲も低下するし、無駄な時間を過ごすことにもなる。
だから私は複数の教科書を念入りに確認した。例の若者も、一緒になって親身に選んでくれた。 悩んだあげく、今回の留学では、发展汉语シリーズの『中级口语』という教科書を使うことに決めた。
「この教科書は比較的新しく、日常会話ですぐに使える生きた中国語を学べるし、同時に中国の最新の経済社会事情についても学べますよ」、と若者からもアドバイスをもらったからだ。
教科書の選定後、マンツーマン・レッスンの教室に移動した。 青島空港に着陸してからまだ数時間しか経過していないが、校長に無理をお願いして、さっそく2時間だけレッスンを入れて頂いたのだ。 教室はお世辞にも広いとは言えないし、どちらかというと殺風景な内装だった。
ただ、私は別に、スターバックスのような洒落た空間を求めてこの学校を選んだわけではない。プライベート・レッスンを行ううえでは何の支障もないし、むしろ授業に集中するという観点からは丁度良いサイズ・内装かもしれない。無駄のない経営。
しばらくすると、先生がやってきた。女性の先生。
こちらの希望どおり、日本語を一切使わずにレッスンをして下さった。中国語での説明内容がわからないときは、簡単な言い回しにおきかえて、私が理解できるまで根気強く解説して下さった。
レッスン終了。授業も満足。教科書も満足。
動画レッスンと同じく、無駄も漏れもない、理想的な授業だった。
これから約二週間、充実した毎日を送れることを確信した。
その後、森校長と初対面。年齢は私よりも少し下だろうか。 初対面なのに、森校長はこの学校の運営にかける想いについて熱く語り始めた。少しばかり、引いた。
隣に据え置かれた校長の本棚をチラリとのぞくと、中国関連の本、組織論の本、教育の本、歴史の本などが所狭しと並んでいた。大学教員の自分から見ても、この校長の読書量は半端ない、と思った。 勉強家。努力家。負けず嫌い。ポジティブ思考。
本気で良い学校経営をしようとしている。そんな印象を抱いた。
翌日から中国語漬けの毎日が始まった。
朝10時から夜の19時まで、休憩をはさんで7〜8時間、マンツーマンのレッスンを受けた。
毎朝、学校まで歩いて行く途中で地元の食堂に入り、サラリーマンやOL達と肩を並べて朝粥とおかずを食べるのも日課となった。先生はローテーションで、総勢7、8名の先生方にお世話になった。先生方の出身地、年齢、経験年数、興味関心分野は多様だった。ただ、講師としてのクオリティという意味では、全員が合格ラインを大幅に超えていた。
森校長にお願いして、動画チャンネルで私を感動させたあの先生のマンツーマン・レッスンを受けることもできた。

 

5.青島日美の魅力
この限られた紙面で、青島日美で過ごした二週間の出来事をすべて綴ることはできない。
したがって、以下では青島日美での短期留学を経験した人間として「一番印象に残った点」を記録するに留めておく。
それは、青島日美で今回担当いただいた講師陣が全員、本当に素晴らしかった、という点である。 彼らの一体どこが素晴らしいのか。
それは以下の四点に集約される。
第一に、日美の講師陣は全員、責任感と誇りをもって講義をして下さった。
学校の最大の資産とは何か。それは建物でも、オフィスの備品でもなく、紛れもなく教員である。
いくら立派なビルを構えていても、先生達に情熱と技術がなければ、そして経営者が先生達を大切にしなければ、良い教育は絶対に提供できない。
巷の語学学校のなかには、先生方をアルバイト扱いで雇っている学校も少なくない。
経営者が講師をアルバイト扱いすると、講師側も責任感やプロ意識が希薄になる。
青島日美の森校長は、講師の先生方を同校の最重要資産として捉えているし、また彼らが日美で教鞭を取ってくれていることに対して最大級の感謝の気持ちを持っている。 講師陣も、校長が自分達のことを大切にしていることを、認識している。とても理想的な関係だと思った。
だから今回お世話になった講師陣は全員、高いプロ意識と誇りを持っていた。 よくよく話を聞くと、離職率・転職率の高い中国でありながら、今では同校講師の離職率は極めて低い、とのことであった。職場満足度が高いことの証であろう。
ある学校の良し悪しを見極める際のポイントをひとつに絞るとしたら、経営者と講師陣との間に信頼関係が構築されているか否か、この点に尽きると思う。
第二に、一体どのような訓練を施しているのかは不明だが、日美の講師陣は全員、「与えられた授業時間を有効に配分・管理する能力」に長けていた。
講師の無駄話が多く、進むスピードが遅い授業は遠慮したい。しかし逆に、急ぐあまり説明が雑になり、理解度が不十分なまま進んでいく授業も問題だ。
単に中国語の教授法を学ぶだけでは、漏れと無駄のない、本当に密度の濃い授業を提供することはできない。
「生徒の時間は有限であり希少である」ことを講師が認識し、授業の時間を有効に管理する能力が不可欠である。 とりわけ私のような「短期留学」の学生の滞在時間は本当に限られている。
その学校の講師陣に時間を適切に管理する能力が備わっているか否か、これは大問題である。
第三に、日美の講師陣は全員、高い教養を兼ね備えていた。
良い語学教員であるためには、高い教養も備えていなければならない。自由会話の練習の際、こちらが中国の文化や社会問題について質問しても、「わかりません」という返答ばかりでは話にならないからである。
日美の先生の年齢層、出身地域、職歴、趣味・関心領域は多様であり、会話の得意分野もそれぞれ異なっていたが、総じて高い教養を兼ね備えており、多くの先生と、中国の歴史、文化、社会問題、経済の問題、若者の価値観など、幅広いトピックについて議論をさせて頂いた。
これにより、私の知的好奇心も大いに満たされた。
「ある国の言語を学ぶと、その国の文化への理解も深まる」ということをよく耳にする。 今回の滞在で、その逆もまたしかりかもしれない、と思った。つまり、その国の文化や人々の価値観に関する理解が深まると、言語そのものの理解力や吸収力も高まる、ということだ。
最後に、日美の講師陣は全員、人間的にも、大変魅力的であった。 言うまでもなく、われわれ受講者は人間である。いくら責任感が強く、時間管理術に優れ、教養に満ちあふれていたとしても、人間として魅力がない先生、つまらない先生と毎日8時間もマンツーマンで接するのはつらい。
日美の講師陣は皆さんチャーミングで、ユーモアに満ち溢れ、そして忍耐強く接してくれた。 だからこそ、純粋にレッスンが楽しかった。中国語でコミュニケーションすることの楽しさも再認識させてくれた。毎日8時間という、やや異常ともいえる勉強時間も、長いとは感じなかった。
言語習得は苦行であってはならない。
改めてそう思った。

 

6.結語
青島日美での短期留学は大変満足のいくものであった。
それはひとえに、青島日美が「教育に対して真面目に取り組んでいる企業」であったからだと思う。
若くして中国にわたり、多くの苦労や困難を経験しながらも、自分自身と先生達を信じて学校経営を軌道にのせた森校長。情熱的で行動派の校長を側面からサポートする、冷静沈着で頭脳派の前嶋副校長。親身になって一緒に教科書を選んでくれた谷口さん(通称「若者」)。毎日8時間レッスンを受講していた私に対して、「疲れていないか」、「コーヒーはいらないか」と気配りをして下さった張さんや郭さん。 そして私に素晴らしい授業を提供してくださった、すべての講師の皆さまに感謝の念をお伝えしたい。
本当にありがとう。 谢谢。

講師コラム

課外活動

動画「中国語講座」